このコラムはワールドミュージックコースのFacebookからの転載です。
楽器を叩きつけるように弾く人がいますが、ピックが弦に触れる瞬間だけでなく、弦を「どうリリースするか」を考えるのも大切です。楽器のボディ全体を豊かに響かせるために、弦に「質の良い振動=エネルギー」を与える、と考えると良いでしょう。スローテンポで練習すると、ピックが「弦にコンタクトしている時間」が感じられて、深みのある良い音色が聴こえ始めると思います。(有田純弘)
リズムをとらえるには、拍の表だけでなく、裏を感じることが大切です。例えば縄跳びやブランコの重心移動で、カーブを描くような「うねり」が遠心力を生むように、裏拍への意識が、表拍の感覚をよりクリアにします。そういう裏のタイミングを掴めば、表の拍での安定感も増し、アンサンブルでも他の人と自分のパートがどう絡んでいるか、が解りやすくなるでしょう。メトロノームに加え、足拍子でしっかり表拍を取ると、体の中で表拍と裏拍のメリハリを感じると思います。(有田純弘)
テンポ・キープが苦手という人は、フレーズのディテイルに気を取られるあまり、全体のリズムの流れを体で感じきれていないのかもしれません。早いテンポでバンジョーを演奏する場合、聴いている側の印象に残るのは、アクセントのメリハリなどの「呼吸感」でしょう。早いテンポの時こそ「ゆったり」した大きなパルスに乗ることが大切です。息を止める程に緊張してしまわないよう、大きく息を吸って体をリラックスさせるといいと思います。肩に力が入っていないか等、楽器の構え方についても意識してみてください。
(有田純弘)
演奏に表現力を加える為に不可欠なアーティキュレーション。それ無しでは、芝居に例えるなら台本を棒読みするようなもの。せっかくの良いフレーズを、聴き手の感情にグッと訴えるように聴かせたいものです。ブルーグラス・バンジョーの場合だとプリング・オフやハンマリング・オンといった技を効果的に使ったりします。聴き手の耳だけでなく、心に訴えかけるフレージングとはどういったものか、という事を考えてみる。フレーズの始まりと終わりにのみ注意するだけでなく、その「間」に「どんな景色を見せるか」、「どんな感情に訴えるか」という意識を持つことも大切です。演奏にまだ確信が持てないうちは丁寧に演奏することに気を取られ、派手な表現にはシャイになる事もあるでしょう。しかし聴き手と「コミュニケートしたい」という意識こそ大切だと思います。演奏技術の面だけでなく、「聴き手と繋がりたい」という演奏者側の勇気の持ち方からも、アーティキュレーションによる表現力は大きく変わると思います。(有田純弘)
テンポが速い曲ほど、ゆっくりのテンポで練習してみましょう。バンジョーは特にゆっくりのテンポほど難しいもの。早く練習してしまうと、適当な出来でもなんとなく「できている気になって」しまいます。そして速いテンポで練習してしまうと、力んだ状態を体が記憶してしまい、本番で一箇所間違えるとドミノ式に崩れてしまいやすいです。練習の時に思い切って脱力して弾いてみるのも良いと思います。ただし脱力はするけれど速いテンポの時と同じ緊張感を持って演奏してみる。車でいつも通る道路を歩いてみると普段気づかない景色が見える、みたいな感じで細かな部分で指や筋肉がどう動くか、という事に意識が向かうでしょう。また難しいパートほど精神的に余裕を持って練習すると良いと思います。「間違えないこと」に拘らずにあえて「間違えてみる」というかメロディを自分で変形させて、例えば半音違う音を途中で混ぜてみる、とか音を抜いてみるとか、ハプニングを楽しんでみるのも面白いでしょう。それが今選んでいる運指に対して「どうしてそれが最適なのか」という確信を持てるきっかけになるかも知れないし、よりそのメロディを「歌っている」という自信が持てるかも知れません。何より譜面の「向こう側」の広い景色を見るような余裕を持つ事が大切だと思います。(有田純弘)
「表現力」というと、演奏法の引き出しの多さなど、演奏者側から見る「技」のイメージをまず持つ人がいるかも知れません。ですが、表現力を感じるのは、「聴き手」の方。聴き手が曲に持つイメージを演奏者も共有しつつ、自分なりの解釈も提案する、という想像力が必要だと思います。映画やミュージカルなどで知られる曲なら聴き手の多くは、曲が流れたシーンを思い浮かべながら聴くでしょう。演奏者ならそういう曲の背景について、知っておいても損はありません。演奏者が、曲の成り立ちを徹底的に理解して、その魅力を伝えよう、という姿勢は「表現力」を自然に産むのではないか、と思います。タイトルや歌詞、メロディのモチーフのシェイプ…など、曲の理解に繋がる視点は色々ありますが、例えばタイトルからヒントを得て自分なりのストーリーを創作する、などというのも良いと思います。例えば曲を「人」のように捉えてみましょう。知り合ったばかりの人とも、会話を重ねるうちに、性格や好みが解ってくる様に、曲も解釈が深まるにつれ「ここはこう演奏すれば曲が喜びそうだ」という感覚が生まれると思います。好きな友達について他人に話す場合、話す内容にも困らないし、その友達の魅力についても確信を持って話せるはず。同じ様に楽曲に対しても、まず興味を持つ、ということが大切でしょう。(有田純弘)